SOTO 2019
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昨年、登山界のアカデミー賞の異名を持つ「ピオレドール賞」の栄誉に輝いたのは、2人の日本人だった。その1人、中島健郎さんに日頃の活動内容から山との向き合い方、道具選びの基準まで、気になるあれこれを伺ってきました。̶ 中島さんは、一年中、山にどっぷりの生活を送ってい  るのですか。いえいえ。山にいるのは年の半分くらいです。普段は街に住んでいて、山でTV撮影をするためにロケーションをコーディネートしたり、現場で撮影スタッフのケアをする仕事をしています。̶ 登山家の方は、常にどこかの山に登っているのかと  思っていました。僕は山に登ることでお金を稼いでいるわけではないので、自分が「登山家」という意識はありません。スポンサードを受けて山に登るよりも、普通に働いてお金を貯めて、休みを取って行ける範囲で登りたい。なので、自分たちが主導の海外遠征は、年に一度できるかどうかなんです。̶ その限られた機会に登る山は、どのように選ぶのでしょう。やはりある程度の標高があって、おもしろそうな壁がある未踏のルートに登りたい。難易度というより、山頂に到達するまでに無駄のない美しいライン(ルート)がある山かどうかが大切です。̶ 2017年に行ったシスパーレへの遠征(ピオレドール  賞受賞のきっかけとなった登山)は、どのようなきっ  かけがあったのですか?あのルートは、今回のパートナーだった平出和也さん(登山家)が長年挑戦し続けてきたものでした。彼とは普段の仕事で一緒になる機会が多くて、声をかけてもらったのが始まりです。̶ 2人の役割分担はあるのですか。平出さんの方が山の経験値が高い。クライミングスキルは僕の方が少しあるので、難しいパートではリードすることが多いと思います。あと、実は僕は高所に弱い体質なんです。テントに入ったあと、具合が悪くて何もできなくなってしまうことがあります。そんな時には、平出さんが水やご飯を作ってくれたり、優しくしてもらいました。お互いが補い合えるいい関係性です。̶ NHKの映像で見たのですが、登山中は雪崩にあった  り、滑落したり。あんな厳しいシチュエーションに置  かれても、平然とされていたのが印象的でした。普通  ならパニックになってしまいそうな……。そう言われてみると、過去に山で焦った記憶がないかもしれません。客観的に見みると、あんな状況は怖いですよね。だけど、現場にいる本人たちは案外冷静なんです。ある程度、許容できるリスクの中で行動していますので。インタビュー 中島健郎SPECIALINTERVIEWKENRO NAKAJIMA015無駄のない美しいラインを登りたい。許容できるリスクの中で行動する。̶ 無駄のない美しいラインとは?例えば、どの山も初登がなされたルートは、やはり一番登りやすいから選ばれるわけです。でも、「そんなところを回り込まないで、ここから登ってあげないと!」っていう、きれいなラインが見える山があるんですよ。̶ 数ある山から、その「登りたい」を見つけるのは、ど  のような時でしょう。たまたま雑誌やネットの写真で目に入ったり、トレッキング中に気になる山や壁を発見したり。気になったら、まず誰かが登っていないか過去の記録を調べて、グーグルアースを駆使してリサーチします。まだ世界には、政治的な理由などで解禁されていないエリアが実はたくさんあります。そこには、まだ誰も見たことのないような素晴らしいルートが残されている可能性があるんです。2017年に登ったシスパーレの未踏ルートの全容。中島がこだわるのは、このラインの美しさだprole 1984年生まれ。父親の影響で幼少期から登山に親しみ、大学から本格的に登山を開始。卒業後は、決まっていた消防士の就職を断り、山を仕事にできる道へと進んだ。その後、8,000m峰14座全てに登頂した竹内洋岳の遠征や、「世界の果てまでイッテQ! 登山部」のカメラマンを担当。2017年には、平出和也と共に、パキスタンのカラコルム山脈シスパーレ(7,611m)を未踏のルートから登頂し、ピオレドール賞を受賞した。この遠征の詳細はNHKオンデマンドとBlu-rayで視聴することができる。15

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